東京高等裁判所 昭和25年(う)2009号 判決 1952年3月29日
控訴人 被告人 柳本こと梁申煥
検察官 稲葉厚関与
主文
本件控訴はこれを棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人折田清一作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載の通りであるから、これを本判決書の末尾に添附し、その摘録に代え、これに対し次の通り判断する。
論旨第一点について。
記録に依ると、原審検察官は、昭和二十四年十月六日被告人に対する物価統制令違反被告事件について、公訴を提起すると同時に、略式命令を請求し、原審は同日これに対し略式命令を発してその送達手続をとつたが、送達不能となり、その後東京地方裁判所に送達を嘱託して漸く昭和二十五年一月十八日被告人にその送達を了し、被告人は同日正式裁判の申立をしたので原審は同年一月二十三日検察官にその旨通知し同年二月二十日略式命令請求書(起訴状)の謄本を被告人に送達したことを認めることができるので、公訴提起と略式命令請求書(起訴状)謄本の送達との間に二箇月を超えていること所論の通りである。しかし、本件のように検察官が公訴の提起と同時に略式命令を請求した場合には、裁判所は、その事件について略式命令を拒否すべきものと思料するときの外は略式手続に依り審判することとなるのであるから、通常の規定に従つて審判する場合に適用されるべき刑事訴訟法第二百七十一条の規定は、未だ適用されることなく、同条は裁判所から刑事訴訟規則第二百九十一条所定の略式命令拒否の通知、又は正式裁判の申立があつた旨の通知が検察官になされたとき、並に検察官が正式裁判の申立の通知をしたとき以後に始めて適用されるものと解するを相当とすべく、従つて右の通知のあつた日又は検察官が正式裁判の請求をした日から二箇月以内に略式命令請求書(起訴状)の謄本が被告人に送達されないときに始めて起訴がその効力を失うこととなるのである。しからば本件において被告人が昭和二十五年一月十八日略式命令に対する正式裁判の申立をなし原審は同年一月二十三日検察官にその旨を通知し爾後二箇月を経過していない同年二月二十日被告人に略式命令請求書(起訴状)の謄本が送達されているのであるから、被告人に対する本件公訴はその効力を失うべきいわれなし、原判決は所論のように法則を無視したものではない。この点の論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穗 判事 山岸薫一)
控訴趣意
第一点原審判決は法則の適用を無視し審判せられたる疑あり従つて破棄を免れざるものと信ず。即ち検事が公訴を提起したるは昭和二十四年十月六日にして略式命令が被告人に送達せられたるは昭和二十五年一月十八日なり其の間三ケ月余の期間を経過したる事実は記録の明示する処なり。
法条を案ずるに公訴提起後裁判所は遅滞なく訴状を送達することを要し、而も終期は六十日以内なるを明規せるに不拘原審はこの点に考慮を払うことなく直に主文記載の如き判決をなしたるは違法なりと断ぜざるを得ず。
(その他の控訴趣意は省略する。)